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雨上がりは突然に
「……っ」
「ぁ、わりぃ!」
背後から走って来た自転車が盛大に水しぶきを掛けてきやがった。
既にだいぶ濡れている。それに住宅街の狭い裏道だから仕方ないかも知れない。
そうは思っても、さすがに…ムカツク。
「てめぇ、覚えてろよっ!」
びしょ濡れのまま自転車をこぐ制服姿の女、ゆきの後ろ姿に向かって叫んでいた。
ゆきは大分先の角を曲がる直前に自転車を止め、
「うっさい、こっちはカサ持ってないんだから!」
わざわざ叫び返してくる。相変わらず律義な奴。
ゆきはその後、何もなかったかのように角を曲がって行った。
「ゆきねぇにも困ったもんだぜ」
「ほんとだよ」
隣を歩くゆきの弟、ハヤトの言葉に相槌を打つ。
ハヤトとゆきとは、小学校から高校まで同じ学校に通っている。しかも、家はご近所。いわゆる…幼なじみか?
今日はカサを忘れたハヤトを連れての帰宅。男と相合い傘しても楽しくもないが、まぁ昔からの習慣だ。
ハヤトがカサを持ってないから、もしかしたらとは思っていたけど、やはりゆきもカサを持ってなかったらしい。
木の下で雨宿りする猫をぼんやりと眺めながら歩いてると、
「にしても、ケン兄がいるから、ゆきねぇ、わざと水切ってっただろ」
ハヤトが突然呟く。
一瞬、返答につまった。
「マジ? やっぱ、この前のいやがらせの怨みかなぁ」
「…………」
ハヤトの視線が突き刺さるように鋭くなる。
「ケン兄、また、なんかやったん?」
思わず視線をそらした。道に並ぶ自販機にたまたま目が行く。新作はなし。
と、カサがずれたため、ハヤトが視線に非難めいた感情も上乗せしてくる。
慌ててカサを元の位置に戻す。
「はぁ、相変わらず……ともガキだし、鈍感だしよぉ」
誰とにもなく疲れ気味に呟いたハヤトの言葉が、雨に染み入って消えていく。
雨音と、ちょうど突風のように横切っていった自転車の音に遮られて良く聞こえなかったが……。
「?」
「なんでもねぇよ」
ハヤトはやりきれない溜息を吐き、ゆき並に短い短髪を荒っぽく掻きむしった。水滴がほんの少し舞い踊る。
俺はただ肩を竦めてみせるだけ。それ以上の返答を求めなかった。
無言のまま、雨のヴェールをまとった通学路を歩いてゆく。
こんな表現をすれば神秘的かもしれないが、横を歩くのが同性じゃ、やはり寂しい。
ゆきと一緒に歩いていた方がまだいい。……いや、しんみりとする雨の時にあのテンションに付いて行く自信はないや。
「暇だねー」
買い物帰りの主婦とすれ違い、そういえば今日の夕飯の材料残っていたかな? とか考えながら歩く。
ハヤトはハヤトで何か考えているのか、時たま苛立たし気に髪を掻きむしったりしていた。
『はぁ……』
同時に溜息を吐く。視線を合わせながら最後の角を曲がる。
ここから二軒目が俺の家。その斜め向かいがゆきとハヤトの家。
「同時に溜息なんて、仲いいねぇ」
突然、背後から声を掛けられて、慌ててハヤトと二人そろって振り返った。
「何? あんたたち、まるで亡霊でも見るような顔をして」
片手でカサを持っていても、自転車を飛ばしたからだろう。びしょ濡れのゆきが真後ろにいた。
一度家に帰ったのは黒いジャージのため明らかだ。それがここまで濡れてるんだから、よほど急いだんだろう。
俺の隣では、俺と同じくハヤトが怪訝な顔をしている。
「ゆき、家に帰ったんじゃないのか?」
「ぁー、ちょっとそこまで買い物に行ってた」
ゆきはそう言うと、食材の入った買い物袋を掲げて見せた。
ニンジン・ピーマン・ブロッコリー・タマネギ・ナス・カボチャ……子供が嫌いそうな食べ物のシリーズがずらりと見える。
「何作るんだ?」
思わず聞いてしまう。ゆきはニコリと笑い、「イヤガラセ料理」と寒気のするほど穏やかな声で答えた。
「というわけで、ハヤト。かあさんには言ってあるから」
「あいよっ」
俺の分からない問答が姉弟の間で行われる。
ハヤトのにやけた顔や、ゆきのさっきの仕草から、嫌な予感がひしひしと伝わって来る。というか、この先の展開が読めた。
ハヤトはゆきからカサを受け取り、変わりにゆきが俺のカサに入る。
「…………」
「というわけで、さっき水かけたお詫び? 私の手料理をご馳走してやるよ」
「何で疑問系…てか、さっき嫌がらせ料理とか言わなかったか?」
「ま、普通に作るから安心して」
くすくすと笑いながら、ゆきが体を寄せて来た。
普段は男勝りのこいつが突然こんな事をするもんだから、思わずドクンと鼓動が高鳴る。雨の匂いをさえぎり、甘い香りが鼻をくすぐる。
「…………」
眩暈がした。
「な…なんだよ突然?」
「あ、気付いてないんだ」
ゆきが悪戯っぽく笑って、少しだけ背の高い俺を覗き見るように見上げてくる。
「ジャージ祭りの日?」
「どんな祭りよ……」
喋りながらほんの少し歩いただけで、家の前に辿り着いた。
門を開け、家の扉の前に立つ。
「……で、ゆき。カサたたんだんだから、いつまでくっついてる?」
「へ?」
今だにくっついていたゆきが裏返った声をあげた。
「あはは、ごめんごめん」
身を離し、半歩横にちょこんと立つ。顔が赤くなっているのは、自分の失態に気付いたからだろう。
「で、今日は何の日なんだ?」
俺も先程の失態を思い出し、顔があつくなっている。それを隠すようにそっぽを向きながら、少し上ずった声をだした。
「あんたの誕生日でしょ!」
そう言って、ゆきが俺の背を押して家に入った。
後ろでは、雨の音が弱まりつつあった。
「そう言えば、あの日もこんな天気だったね。約束、忘れたとは言わせないからね♪」
「あ、おい…あれって幼稚園の頃の話だろ…って、聞けよ!」
悲鳴じみた俺のセリフは、あっさりと無視されたよ、こんちくしょう!
――あとがき
電波です……。ありえないシチュエーションです……。
マンガとかではよくありそうなシチュエーションですけれど、電波です。
今時こんなのって、ないでしょう……。
だから電波です。毒電波です。洗脳されました。
いやね、甘ったるくて胸焼けしそうなの書きたかったんですよ!
そしたら、こんなのになりました!
読んで胸焼けした人、計画通り、ざまーみ…ご愁傷様です。
まぁ、しばらくシリーズ物書く予定(一話分は書き終わっているけど)なので、この手のものはしばらく休業しますよ。
気分転換にこう言うの書くかもしれませんけれどね?
後、尾形さんの方はどのジャンル書くかわからないので何とも言えないけど…(汗ッ
まぁ、近いうちにまた!
2005年2月6日 桜月楓
小説楓
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