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ンジョクリ第一話『初日が最終日』



 早坂ハリーの冒険は、いきなり終わりそうになっていた。
「な……なんでだよっ! くそっ!」
 彼は二十歳を迎え、立派な剣士になれた気がしたので村を出た。
 今日は冒険初日。とりあえず隣町へ行こうと街道を歩いていた。
 その脇道で洞窟を見つけたので腕試しと入ってみたのだが、入って五秒で大量の魔物に囲まれたのである。
 数は二十匹。どう考えてもおかしい。
 この街道は一般人が買い物とかのライトな理由に使う道な訳で、その脇道の、それも入ってすぐのところにこんな数がいたんじゃ毎年三桁は死者が出てしまう。
 しかしこの道ができてから死者なんて一人も出ていない。
 運が悪かったといえばそうなるが、それにしては悪すぎである。
「なんでなんだよ! おのれっ! 魔物め!」
 斬っても斬っても襲ってくる。
『切っても切っても顔が出る! 金太郎アメ発売中!』
 ハリーの脳裏に冗談が浮かんだけど、今はそれどころじゃない。
 そして五匹目を倒したとき、剣が折れた。ズバッ! って斬ったら、パキッ! って折れた。
 まだ魔物は十五匹くらいいる。
「うっ……」
 じりじりと後ずさり。さらに後ずさり。
「おーい、ここは立ち入り禁止だぞー」
 そのとき、洞窟の奥からやる気のない声が聞こえてきた。
 確かに洞窟の前に『立ち入り禁止』と看板が置いてあったが、そんなもん律儀に守る冒険者がどこにいようか。
「聞こえねーのかー? 入っちゃダメなんだぞー」
 さっきも言ったが、今はそれどころじゃない。
 折れた剣で魔物の攻撃を防ぎつつ、迫り来る死の影に必死で立ち向かっているところなのだ。
 というか、立ち入り禁止という世間のマナーを主張する前に、生きるか死ぬかの大バトルを繰り広げるハリーを助けるべきなのではないだろうか。
「き……聞こえてます! でも今、すんごい取り込み中なんです!」
 ハリーは律儀に応答してみる。
 いや、本当は「助けて!」と叫びたかったところを、それは剣士のプライドが許さなかったので遠まわしに救援を求めただけだったりするが。
「よーし分かったー」
 声の主は何かを分かってくれた。
 ハリーは裏メッセージまで読み取ってくれたかドキドキしつつ、それはもう必死で間を持たせた。
 突然、ハリーの視界が白い霧のようなものにおおわれた。

 霧が晴れたかと思えば、ハリーの視界は暗い洞窟から木漏れ日のさす森へと変わっていた。
 というか洞窟の前である。
「え……?」
 剣をかまえたまま立ちすくむ。
 あたりに魔物はいない。
 なんというか、状況が分からない。
 どうしていきなりココに移動しているのか。
「いつの間にか寝ちゃったのかな……」
 夢でも見てたのかと思ったが、手に持つ剣が折れっぱなしなのを見てその考えは否定された。
 それはそれで『気がついたら寝てた』なんて若年性老化現象が否定された訳でもあって、そういう意味ではホッとした。
 しかし腑に落ちない。
 不思議な移動もそうだが、そもそもどうしてあの洞窟は立ち入り禁止なのか。
 おそらく、洞窟の中で聞こえた声が謎のカギを握っているハズだ。
 ハリーは再び洞窟へ入った。
 また魔物に囲まれれば、今度こそ死んでしまうかもしれない。
 だが、謎の答えを知りたいという好奇心がその思いに勝った。
 そう、好奇心の探究こそが冒険者の原動力なのだ。

「うおぉっ!」
 ハリーは再び死にそうになっていた。
 洞窟に入ってしばらくは魔物に会わなかったものの、分かれ道を右に行ったとたん大量の魔物に囲まれたのである。
 剣はさっき折れてしまったので、今の武器は練習用の木刀だ。
 攻撃力も防御力も剣より劣るが、そこは技術でカバーする。
 ハリーは子供のときから剣術の練習に明け暮れてきた。
 親が剣術道場に通わせてくれなかったから、ただひとり孤独に山ごもりとかして鍛え続けてきたのである。
 そんなロンリーウルフな修行方法のおかげで、冒険者一年生としてはかなりの強さを誇っている。
 だがしかし、
「うらぁ!……って、ああっ!」
 三匹目の魔物を倒したとき、木刀が折れてしまった。
 当たり前である。剣も折れてしまう相手を木刀でなんとかしようとするほうが間違っている。
 ハリーは冷静に考えてみて「何が好奇心だよ! 命あっての物種じゃないか!」と今さら後悔した。
「やべぇ……」
 ちなみに今度の数は多すぎて数えられない。四十はいるんじゃないだろうか。
 マンガのように寿命とかと引き換えに敵を一掃するような奥義があれば使いたいところだが、あいにくそんな便利な技はない。しょせんマンガはマンガだ。
 という事は今度こそハリーは死んでしまう。
「動くなよー」
 そのとき、やる気のない声が聞こえてきた。
「この声……さっきの」
 このやる気のない声を聞き間違えるハズはない。さっき洞窟の奥から聞こえてきた声だ。
 ハリーは命の危機も忘れ、ついに正体が分かると声のほうを向いた。
 そこからは、すごく安そうな鎧を着た男剣士がこっちに向かって突っ込んできた。
 あっという間にハリーに接近したと思えば、剣士のうしろで五匹くらいの魔物がパタパタと倒れた。
「へ……?」
 さらに次の瞬間、残った魔物が全部炎につつまれた。
 炎の先には、すごくめんどくさそうな顔をした女魔法使いが立っていた。
 あたりに炎の熱気と、肉の焼けるにおいが広がる。
 四十ちかい数の魔物が、たった二人に数秒で倒された。
 ハリーは二人の手並みに言葉を失い、固まってしまった。
「危ねーな。立ち入り禁止だって言ったろ」
 頭をかきながら、やる気のない声で剣士が言う。
 やはり不思議な声の主はこの剣士だったらしい。
「あ……」
 ハリーはまだ驚きの余韻が残り、言葉が出なかった。
「ああ? ハッキリしゃべれ」
 半ギレされて我に返る。お礼をしなくちゃ。
「あの……助かりました。ありがとうございます」
「あー、いいよ礼とか。めんどくせーし」
 ぶっきらぼうな返事がかえる。なんだその答えは。
「つーか立ち入り禁止だっつってんだろ」
「すいません、入るなって言われると入りたくなるもので……」
 ハリーも負けず劣らず『なんだその答えは』である。
「冒険者のサガってやつか。まぁ仕方ねーな」
 しかし、そんな答えは受け入れられた。この剣士、言動の割に物分りはいいようだ。
 そこでハリーは「悪い人じゃないみたいだから話を続けよう」と結構セコい行動選択をとった。
「あの、よろしかったらお名前を……」
「は? 名前? なんで?」
 驚いた。
 名前を聞いたら、頭ガリガリかきむしってフケをまきちらしながら答えられた。
 それはもう本当に驚いた。
「いや……名前くらい聞いてもいいじゃないですか……」
「あー、んじゃデューク東郷でいいや」
 偽名だ! 絶対偽名だ! ゴルゴだろそれ!
 声に出しかけたツッコミを、命の恩人の前では失礼と踏みとどめた。
「トウゴウさんですか……そっちの魔法使いの方は?」
 焼死した魔物をめんどくさそうな顔でつついて遊ぶ女魔法使いを見る。
 彼女は一瞬ハリーを見て、
「米良……」
 ボソッとつぶやいてすぐに視線を魔物の死体に戻した。
「あー、あいつ無口だから。米良メリッサっていうんだ」
 かわりに東郷が答えた。
「メラさんですか……」
 ハリーは声に出して名前を覚えようとする。男剣士の東郷に、女魔法使いの米良。
「でよ、オレら仕事中だから洞窟から出てってくんない?」
 相変わらずよく分からない東郷の返答に気が抜けたけど、それよりも立ち入り禁止の理由とか、何より彼らの事が気になった。
「あの……仕事って魔物退治ですか?」
「なんで?」
 謎を解こうと質問すれば理由を聞かれる。どうにもコミュニケーションのとりづらい相手だ。
「いや……魔物退治なら立ち入り禁止にせず、他の冒険者に協力を求めるんじゃないかなーって思って……」
「そうだね」
 今度はストレートに違和感をぶつけてみるも、あからさまに流されてしまった挙句、話の流れをバッツリ止められてしまった。
 ハリーは「アンタもっと話ふくらませていこうぜ!」と心で叫んだが、命の恩人という手前があって口には出せなかった。
「えーと……東郷さんたちの仕事ってなんなんですか?」
「気になる?」
 どうしてそういう物言いばかりするんだろうと少しイラついたが、さっきも言ったように気になるのは確かだ。
「気になります」
「んじゃよ、オレらの仕事手伝うか? ちょっと人手がほしいんだわ」
「はい?」
 突然の申し出にビックリして固まると、東郷は少しイラ立ちながら、
「やんの? やんねぇの?」
「あ、いや、やります! 恩も返したいですし」
「だから恩とかいいから。とりあえずヨロシクな」
 東郷は頭をかきながら、かったるそうに言った。
「で、名前」
「え?」
 これまた突然に言われ、ハリーは本日三度目のフリーズを起こした。
「人にさんざん聞いといて自分の名前は言わねぇの?」
 そういやそうだったと慌てながら、ハリーは姿勢を正した。
「すいません。早坂ハリーって言います」
「変な名前……」
 つぶやく米良の即答に、今すぐ首をしめてやりたい衝動が走った。
 こうして、やたら強い男剣士・デューク東郷と、やたら強い女魔法使い・米良メリッサの仲間にくわわった。

「あーらよっと」
 今日びなつかしい掛け声で東郷が魔物を一刀両断し、他の魔物も米良が魔法で片付ける。
 ハリーはといえば、武器がないので戦闘に参加できず、東郷と米良が背負っていたリュックを背中と胸にかけている。
 なんだか小学校のイジメられっ子みたいだが、これがハリーにまかされた仕事なのである。つまり荷物持ち。
 で、少し奥に進めばまた魔物が出てきて、また東郷と米良が倒す。
 こんな感じでずっと魔物を倒してばっかりだ。
「やっぱり東郷さんたちの仕事って魔物退治じゃないんですか?」
「そのうち分かるから黙ってろ」
 さっきから何度聞いてもこの答えしか返ってこない。
 というか、分かれ道を右に行って次の分かれ道が出たかと思えば、さっきの分かれ道に戻って今度は左へ進み、そこの魔物を倒す行動を繰り返している。
 もう洞窟じゅうの魔物を根絶やしにするくらいの草の根掃討っぷりで、これは魔物退治以外のなんなのだろうか。
 気になる事といえばもうひとつある。
 さっきから米良がところどころの壁に赤や青の印をつけているのである。
「米良さん、それってなんなんですか?」
「…………」
 これもさっきから何度か聞いているが、そのたびシカトされている。
「だから黙ってろって。わざと間違えて君斬っちゃうよ?」
 そして毎回東郷から怒られている。

「行き止まりですね」
 洞窟に入ってから四時間半くらいだろうか。ついに洞窟の最深部にたどりついた。
 分かれ道を進んだり戻ったりしてるおかげで、この洞窟で行ってない場所はない。
 自信をもってここが洞窟の最深部だといえる。
「そうだな。……米良、頼む」
 米良が無言で岩の前に立って手をかざす。
 ガガガガガガガッ!
 直後、岩が派手な音をたててガンガンえぐれていった。
「へ?」
 今までの道中でさんざん驚いてきたが、これは一番の驚きだった。
 もう普通に何やってるか意味が分からない。
「な、何してるんですか! 落盤したら危ないじゃないですか!」
 ここまで非難のツッコミを我慢してきたハリーも、今度ばかりは我慢できなかった。
「広さが足りねぇからよ」
 東郷の当然のような答えっぷりに言葉を失った。
 そして米良が魔法を止めたときには、なんでもない袋小路がえらく広い空間に変わった。
「なんなんだよ一体……」
 訳が分からず立ちすくむハリー。
 すると突然おもむろに。東郷が削岩で散らかった岩をすみのほうに片付け、米良がこれまでよりかなり多めに印をつけ始める。
「だから何やってるんですかって!」
 聞いてもシカトされ、ふたりは謎の行動を黙々と続けるばかり。
 これから数分間、ヒステリーに叫び続ける男と無視して奇行を続ける男女という、妙な図式が空間を支配した。

「ハリー君、そのリュックの中身とってくれ」
 あらかた岩を片付けた東郷が、もう叫ぶ気力もなくなったハリーに言う。
「なんなんですか……うわっ!」
 中身を見て驚いた。
 金貨やら宝石ばかり入っている。
「そんな驚くな。全部安物だ」
 言われてみてよく見れば、どれもこれも欠けてたり薄汚れていたり、売ったところで大した額にはなりそうにない。
「でもこれ、どうするんですか?」
 東郷のところまで持っていくと、彼は「ごほうびだよ」と言ってそのへんに投げ捨てた。
「えっ? えっ?」
 いくら安物とはいえその扱いはどうなの? とか、なんで捨ててんの? とか、何から突っ込んでいいか分からない。
 とりあえず改めてこの空間を見渡してみれば、床には安物の金貨とダイヤが、壁には米良が大量に描いた赤と青の印がビッシリで、もう何かの儀式でもするんですかといった感じだ。
「んじゃ始めるか」
「儀式ですか?」
 東郷が唐突に口を開くものだから、ハリーは思っていた事をそのまま言ってしまった。
 しかし東郷は「そんな感じだ」とニヤけて答え、状況に対する混乱っぷりは一層加速した。
「ハリー君、壁から離れてな」
 言われるまま壁から離れると、米良がこれまでと色違いの黄色い印を描き、壁に手をかざした。
 すると黄色い印が光り、そこから巨大な魔物が出てきた。
「なっ!? えっ!? ちょっ、何してるんですかっ!」
「召還魔法だ。初めて見たか?」
 腕を組んで平然と見守る東郷に、ハリーはもう本当に訳が分からなくなった。
 これまで散々魔物を倒してきたかと思えばいきなり魔物を召還。ねぇ何がしたいの? という気分だ。
 そんなハリーをよそに、米良は赤い印の前で手をかざす。
 今度はすべての赤い印から普通サイズの魔物が次々と出てきた。
「だからホントに何してるんですかって!マジで!」
 その叫びもむなしく響くだけで、米良は青い印の前に手をかざす。小さい魔物が出てきた。
「う……」
 米良のおかげでこの空間は魔物だらけになった。
 召還された魔物だからだろうか、ハリー一行には一切攻撃しようとしない。
 だからといって魔物に囲まれるのはいい気分じゃないが。
「よーし、帰るぞー」
 満足げな顔で東郷が号令をかける。
「え? ちょっと、この魔物どうするんですか?」
「知らねーよ。そこまではオレらの仕事じゃねーし」
「知らねーって……ボクら襲わないみたいですけど、他の人には害ないんですか?」
「オレら以外は普通に襲うよ? 冒険者がなんとかしてくれんだろ」
「なんですかそれ」
 ここで会話が止まる。
「……肝心な事は何も答えてくれないんですね……」
 いいかげんゲンナリした。
「米良、頼むわ」
 案の定シカトして自分たちに都合のよさげな話だけ進める東郷と、何かの魔法を発動させる米良。
 直後、ハリーの視界が白い霧に包まれた。

 白い霧はすぐに晴れたが、いつの間にか景色が暗い洞窟から森に変わっていた。
「え……」
「瞬間移動の魔法だよ」
 東郷に言われて納得した。
 そしてもうひとつ納得というか、謎がひとつ解けた。
 最初に洞窟に入ったとき、いつの間にか洞窟の外へ出されていたのは米良の魔法だった訳だ。ちょっと気持ちがスッキリした。
 それにしても、急に視界が明るくなったもんだからまぶしくて仕方ない。
「って、ていうか! 何やってるんですか! 魔物召還して何やってるんですか!」
 あやうくスッキリした気持ちとともにシャバの空気で一仕事終えた気分になりかけたハリーが叫ぶ。
「うっせーな、それがオレたちの仕事なんだよ」
「仕事って……」
「ああやってオレらの言うこと聞かない魔物を倒して、オレらの言うこと聞くほうの魔物と入れ替えるのが仕事だって言ってんだよ」
「さらに意味わかんなくなりました」
 至極まっとうなツッコミを入れると、東郷はめんどくさそうに「よく聞けよ」と念を押して話を始めた。
「ダンジョンってのは業者がつくったものだ」

 ハリーは一分くらい固まっていた。
「えーと、今なんとおっしゃいましたか?」
「ダンジョンってのは業者がつくったものだ」
 律儀に待っていた東郷が律儀に同じ事を言う。
「え……」
 そんな事いきなり言われても信じられるハズがなく、ハリーはコメントに困ってまごついてしまう。
 待つ男・東郷は、ハリーが復活するまで間を置いてから話を進めた。
「冒険者ってのは今一番人気のある職業でな。
 実際、人類の八割が冒険者だ。
 で、そんな人気職種のみんなが張り切ってダンジョン攻略してたら、この世のダンジョンから魔物が絶滅しちゃうだろうが」
「いや……それはいい事じゃないですか……」
「わかってねーな。魔物がいなくなったら冒険者は何すりゃいいんだよ。
 知ってるか? もうこの世界に魔王はいねーんだぞ」
「えぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 聞きたくもなかった驚愕の事実。
 子供の頃から勇者といっしょに魔王を倒す事を夢に生きてきたハリーには重すぎる事実だった。
「ま、マジっすか? 魔王いないってマジっすか?」
「ああ、去年勇者がやっつけちまった」
「そんな……ボクは何を目的にすれば……」
 崩れ落ちるハリーをよそに、東郷は今度は待たずにたたみかける。
「魔物を倒すってのはな、冒険者にとって唯一絶対のアイデンティティなんだよ。
 それがなけりゃ冒険者なんて日がな一日酒飲むくらいの存在だ。
 分かるか? そりゃ無職っていうんだよ」
 ハリーは反論したくてたまらなかったが、ショックが大きくて口が動かなかった。
「オレたちの仕事はな、未開の洞窟や攻略済みのダンジョンに魔物を配置して、この世のダンジョンから魔物を絶えさせない事なんだよ」
「そんな……」
 追い討ちをかけられ、さらに姿勢が低くなった。
 東郷の言うように、そうしないと冒険者が腐るだけの人種になるかもしれない。
 だけど、だからって無駄に魔物をばらまいて世の中の平和を乱す事なんてあってはいけない。
「あ……アナタたちは命の恩人として感謝しています……
 でも……だからってやってる事は許せません! 役人に訴えさせてもらいます!」
 燃える闘志をみなぎらせ、ハリーの気合は正義を背負って復活した。
「あ、そう」
 すごくアッサリ返されたが、そんな事で退いてられない。
「この事は冒険者のみなさんにも言って回ります! 覚悟してください!」
「そうか」
 すごい鼻息のハリーとクールな東郷。このシチュエーションだけ見るとハリーが逆ギレしてるみたいだ。
 しばらく東郷を睨み付けるハリーの肩を、米良がチョンチョンと叩いた。
「ねぇ、ハリー君だったよね……?」
「なんですか!?」
 温度差が非常に高いふたりだ。
「別に言ってもいいけど……」
 めんどくさそうな顔を変えず、ボソボソとした口調で続ける。
「けど、なんですか?」
「誰も信じないよ……」
 もうマジ切れでケンカ腰のハリーだったが、米良は気にせず真っ向勝負な発言をする。
「そんな事ないです!」
「冒険者ってね、世界の平和だなんだを高らかに叫ぶばかりで、実際は明日の生活も考えられない可哀想な人たちなんだよ?」
「う……」
 言われてみればそうだ。
 冒険者の収入源を考えたら何もない。魔物を倒したら金が出てくるなんてゲームの話だ。
 かくいうハリーだって収入に関して何も考えていなかった。
「そんなヒーロー気取りのアホなんだから、せいぜい私たちのメシの種になればいいんだよ……」
 吐き捨てた彼女のセリフにハリーは固まってしまう。これで通算何度目だろうか。
 米良は言うだけ言うと、そのへんに座り込んでアリの行列を眺め始めた。
「ま、そんな訳だからよ。
 とりあえず手伝ってくれてありがとな。これバイト代」
 東郷は華麗に話をまとめながら、固まったままのハリーの手に一万円札を握らせる。
「なっ……ふざけないでください! こんなもんいりませんよ!」
「じゃーな」
「バイバイ……」
 なんとか復活したハリーが通算何度目になるか分からない非難の声をあげるも、一方通行にシカトされる。
 今日一日で通算何度シカトされてるんだろうか。
 そしてそのまま、ふたりは瞬間移動の魔法で消えてしまった。これは通算二度目だ。
「くそっ……」
 ハリーは納得いかない気持ちといっしょにひとり残された。
「なんなんだよ……アイツら……」
 初日から冒険者の裏社会を見させられ、子供の頃から夢に描いていた冒険者像は粉々になるまで否定された。
 その事を否定しようと今日の出来事をひとつひとつ思い出せば、認めたくない現実が一層説得力を増し、気が滅入るばかりだった。
「どうしたら……どうしたらいいんだよ……」
 早坂ハリーの冒険は、いきなり終わりそうになっていた。


つづく


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