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灰色の雨音5 前編
こんなときどうすればいいのだろう……。
湯気のなくなったコーヒーが、先輩の手元で寂しそうにしている。縁まで入ったコーヒーに揺れる先輩の顔。さっきからずっと口を開いていない。ただぼうっと窓の向こうを見ているだけ。彼の目線は、ずっと外。
私が来たときには、もうこんな感じだった。
顔をチラリと盗み見ながら、私も外に目を向けた。
色とりどりのカサが黒く染まった地面のうえで踊っている。電車から降りてきた人たち。彼らが散っていくと、また静かな雨があたりを濡らした。
冷えた空間のなかで、氷が小さく音をたてた。
私のまえに佇んでいるアイスティーに視線を落とす。半分まで減った水面に映る先輩の顔。私を、見ていた。
顔をあげたら、目があった。ずっと雨を見つめていた、瞳。
ため息をついて、彼は冷たくなったコーヒーに手を伸ばした。軽くカップのふちに口をつけそうなところで、手を止めた。
「学校、楽しいか?」
「え?」
突然の言葉に、何て返そうか……言葉に詰まった。
先輩はゆっくりとカップをかたむけた。
「あ、はい。楽しいですよ」
「そうか」
先輩はカップを置き、雨へと目を向けた。孤独な匂いを雨音に求めるように。
「せん……ぱい?」
胸がしめつけられているかのように、苦しくなり、熱くなった。思わず胸元に手をやった。
なにか言われるのが怖かった。先輩にまとわりつく雰囲気が辛かった。
それなのに、先輩はゆっくりと口を開いた。外を見つめたまま。淡々と。
「大学をやめようと思うんだ」
「……え?」
心臓が大きく跳ね上がって、止まってしまったような錯覚がした。
「え……だ、だって先輩!」
思わず立ち上がって、声を張りあげた。机のうえでカップが音をたてる。
先輩はちらりとこちらを見て、首をかるく振った。
「どうしても、今のままここで勉強していていいのかわからないんだ。このまま落ちていくなら、早めに区切り、つけないと」
まっすぐに私のことを見つめてきた。
「でも、先輩。もう四年生です。今年で卒業なんですよ!」
「……そうだな。でも、卒論が間に合わないよ」
私はただ手をつよく握りしめ、彼の瞳を見つめ返した。
なにも言わないで、先輩は立ち上がった。バッグを手に取ると、私を促して外へと向かう。私もその後ろに続いた。
――あとがき
こんばんは、楓です。アップするアップするといって時間がかかってしまいました。申し訳ないです。
今回は原稿用紙四枚分です。予定より多くなってしまいました。そして、前編です。
今までと雰囲気が違うと思われるかもしれません。後編でどうなるかは……お楽しみ。
灰色の雨音は今まで、一話に付きおよそ一年を進めてきました。この次で終わらせる予定でしたが……次は後編になります。後編の次が最終話となります。
これは何回書き直したか……。今までの灰色の雨音シリーズのなかで、圧倒的に書き直し回数が多いです。ラストに向けてなので、色々と考えてしまいました。
とりあえず、今度こそ一週間以内に後編をアップできるようにしたいと思います。
2006年3月18日 桜月楓
超短編小説
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