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藍色の線香花火
ころころと舌の上で飴玉を転がしながら、ケイちゃんは茜色を浸蝕してきた藍色の夜空を見上げていた。
「ボクもいつかあそこに行けるかな?」
「何でお空に行きたいの?」
「だって、おとうさんが星になっちゃったんだもん」
わたしはケイちゃんの手をギュッと強く握り締めた。ケイちゃんが泣きそうに嗚咽を漏らしながらわたしの手を力強く握り返してくる。
二人はそのままトボトボと畦道を歩き出した。二人の影が離れることを知らないかのようにずっと横をついて来る。
「ケイちゃん、わたしはお空に行きたくないな」
「なんで? おねえちゃんはおとうさんに会いたくないの?」
わたしはケイちゃんの言葉を聞き、目の前が揺らいだ。熱いものが頬を伝って流れ落ちる。思わず足を止めてしまう。
「だって、お空にはケイちゃんもお母さんもいないんだもん」
「でも、おとうさんだけじゃかわいそうだよ」
ケイちゃんはわたしの指を離さないまま、続けた。
「おとうさんがこっちに来れたらいいのにね」
もうわたしは目の前がまったく見えなくなってしまった。ケイちゃんはわたしの様子がおかしいことに気付いたのかな。手を優しく握りなおしてくる。
しばらく二人で畦道に立っていた。もう、先に進む事もできない。わたしが歩けなかった。ケイちゃんが心配そうにわたしに色々と話し掛けてくる。
心配して、優しくしてくれるケイちゃんが愛しかった。
でもわたしは邪険にしてしまった。手を振り払おうとする。でも、ケイちゃんは手を放そうとしなかった。
「ダメだよ…おとうさんが夜歩くときはちゃんと手をつないであるくんだよ、って言ってたもん」
気が付くと、ケイちゃんも目から涙をあふれさせていた。それでも手を放そうとしない。
ケイちゃんがあんなに大切になめていた飴玉も地面に落ちている。小さくなった、透明な丸い飴玉。お父さんからもらった、大切にしていた飴玉。
わたしは服の袖でゴシゴシと涙を拭くと、ケイちゃんの手を握りなおした。
「ごめんね……」
ただ謝る。ケイちゃんは何も答えない、答えられない。
「ごめんね…ごめんね……」
わたしは何度も謝った。何に謝っているのか自分でも分からない。でも謝らないといけない気がした。
気が付くと、ケイちゃんも泣き止んでいた。ぼんやりとした月明かりの下、ケイちゃんの表情はわからない。
でも、何を見ているのか分かった。
「おねえちゃん、はなびだよ」
「うん」
気が付くと、わたしたちの後方で花火が上がっていた。大きな花火、小さな花火、いっぱい上がる花火、一個ずつあがる花火……。
二人そろって花火に見入る。
「はなびはおとうさんのいるところに届くのかな?」
「届くといいね」
わたしはそっとケイちゃんの手を引いた。ケイちゃんは名残惜しそうに何度も背後を振り返りながら歩いてくる。
「家に帰ったら花火やろう」
「うん!」
畦道に響く花火のドーンという音を背後に聞きながら、わたしたちはどんどん歩いて行った。つないだ手は放さないまま。
あとがき――
藍色は『哀色』
藍色は『愛色』
藍色は『相色』
藍色は『逢色』
すみません、何となく言ってみただけです。深い意味はないはず。ほら、こんなの書いたあとだから感傷に浸ってるんですよ、きっと……。
今回のテーマはずばり「花火」です。
花火と言えば、ワイワイ。ガヤガヤ。イチャイチャ。などといった擬音ばかり浮かぶんですが、何となく今回はそんな雰囲気をなしにしてみました。
私の夏は、きっとしんみりです。いや、そうでもないか。誰か『藍』をください。
2004年7月16日 桜月楓
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