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くすんだ白
窓越しに見える世界は、ひどく哀しい闇色をしていた。窓から遠くに見える歓楽街のイルミネーションは、さらに世界を淋しく見せている。
もう校舎に残る生徒はほんの一握りだろう。
彼女と一緒に歩いていた時は感じなかったけど、夜の校舎はひどく寂しい。遠くに見えるイルミネーションは、今になっては怨めしくさえ思える。
一人で歩く事がこんなに寂しいだなんて…あの時は夢にも思わなかった。トボトボと上履きの音が私につきまとう。
コンコン。ドアをノックし、職員室の扉を開けた。
「失礼します。部室のカギを返しにきました」
「ん? あぁ。そこに置いといてくれ」
「はい」
職員室に残る唯一の先生は、偶然にも部活の顧問の先生だった。カギを返し、職員室を出ようとドアに手をかけると、顧問が仕事の手を休め、声をかけてきた。
「そういえば、一年の葉山が退部届を出しに来たんだ。何か聞いてないか?」
「いえ……」
嘘だ。彼女が部活をやめる理由は私が一番詳しく知っている。彼女自身を抜かせば。
私はそっと顧問から視線を逸らすと、ドアを開けて職員室から廊下に一歩踏み出す。
「いやな、おまえたちいつも一緒にいたから、てっきり何か聞いてると――」
「すみません。これから予備校に行かなければいけませんので……」
失礼になると思ったけど、咄嗟に口が開いていた。それでも最後の方は半ば口の中で呟くような小声になる。
「失礼します」
強引に話を終わらせ、私はクルリと振り返り一礼するとドアを閉めた。ふわりと舞ったスカートが元の位置に戻る前に駆け出す。
タッタッと校舎に上履きの音が反響する。涙が出そうで、それをグッとがまんして、それでも泣きそうで…歯を食いしばった。
無意識のうちに私はそこにいた。私の前にあるのは…音楽室。三年間、学校が終わるとほとんど毎日いた場所。
「あ……」
「せ…先輩」
そして音楽室の前にいるのは――
「ユリちゃ…葉山さん……」
思わず出た言葉を押し込め、言いなおす。もうそんな関係じゃないから。
彼女は微かに額に汗をかき、肩で息をしていた。暑いからボタンを外したのだろう。胸元に見える校則違反のネックレスは私が彼女の誕生日にあげたものだ。
「先輩……」
彼女がしがみ付くように抱きついてきた。震えているのが伝わってくる。私は戸惑いながらも、そっと彼女の事を抱きしめた。
私も小柄な方だけど、彼女は私よりもさらに小柄だった。抱きしめながら彼女の頭をなでてやる。
「やっぱりヤダよ…私、先輩と別れられない」
「ユリちゃん」
今度は迷う事無く彼女の事を今まで通りに呼ぶ事ができた。
二人で歩く校舎はついさっきまでの暗さが嘘のようだった。外の闇に浮かんだイルミネーションは私たちを祝福してくれているんだろう。ポツポツと降り出した雨の音が心地よい。
「先輩…ごめんね」
「いいよ」
私の胸元が少しだけ濡れていることを言ったのだろう。私はそっと首を振った。
「そういえば…部活はどうするの?」
「それは完全にやめます。だって、もうすぐ先輩卒業だし、私が部活やっていたらあまり会えなくなります」
力説するように拳を握って答えるユリちゃん。
ここが学校だなんて関係ない。愛しくて、彼女の頬に手をやり――。
――あとがき
えーと、今回のテーマですか? 今回はテーマなし。夜の学校を一人で歩く姿がふと浮かんだんで、それを書きたくなりました。で、こうなったわけであります。
夜の学校を一人で歩くイメージから何でこうなったかは…色々と深いふか〜い事情があるんですよ、ね? たまにはこんな展開もありってことで。
にしても…もう少し上手く書けないかな……。万人がそうだと分かりながら直接的表現がないように出来たらいいな。出来たらいいなじゃなくて、出来るように頑張らないと!
てことで、一人ツッコミは好きだけど寂しい楓でした。あとがきは相変わらず苦手です。
2004年7月30日 桜月楓
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