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藍色の夕焼け
いつの間にか、日は暮れていた。横に座る少女の髪と同じ色の夕日が先程まで見えていたのに、それも消えている。
「……帰ろうか?」
少女に声を掛けるが、素晴らしいと思ったそのていあんは少女が首を一振りし、いとも簡単にボツになってしまった。残念。
指を握る少女の手に力が篭る。いたくは、無い。その手が、ぼくのていあんを精一杯否定しているのが分かって…どうしたらいいんだろう。
とりあえず、少女から視線を移した。
ジャングルジムから見下ろすその世界は、魅惑的なものだった。
誰も使っていない、暮れた色をしたブランコ。紺色のトレーナーが置き忘れられている銀色のスベリ台。芝と土が入り混じる深緑の大地。そして、水飲み場から流れて出来た、輝く藍色の水溜り。
いつもはこの時間、ジュクにいるか家でご飯を食べている。こんな時間にこんな場所にいるのは、始めてかもしれない。
うん、この子に感謝しよう。この子がダダをこねたから家に帰れなかったんだ。ぼくが悪い分けじゃない。でも、帰らないとまずいのも、分かる。
「どうするの?」
少女はもう一度首を振った。向こうからていあんがなければ、ぼくから提案しなくちゃいけないってことだ。うん。
「帰らない?」
……これじゃ、さっきと同じだ。でも――違った。
「帰りたぃ……」
「え?」
少女の言葉に、思わず聞き返してしまった。少女は目に涙を浮べて、ジャングルジムの下を恐る恐る覗き込んでいる。
ふたえをかえせばかんたんなことだ。とはよく言ったものだ。
……つまり、何をやらなければいけないのかはっきりと見えてきた。ならば、どうにかすればいいんだ。
「…………」
おんぶしても、きっと一緒に落ちちゃうだろうし――
困った。やることが分かってても、どうやってそれを完成すればいいのかが分かんない。
やるべき事が分かってもどうすればいいのか分からないのは、やるべき事が分からないのと一緒なのかもしれない。そんなことを考えて、大きく首を振った。
少女は驚いてこっちを見ている。目をまん丸に、本当にまん丸に精一杯開いて、驚きを全身で表している。
と、予期せぬ事態にぼくは少女の手を精一杯強く握り締めた。絶対に放さないように!
「ぁ――っつ」
一瞬だった。体が宙に投げ出された直後、足に衝撃。膝を曲げてそれを痛くないようにするけど、それでもダメだった。しりもちをつく。
「だ…大丈夫!」
自分のことよりも、目の前で呆然としている少女の方が気になった。
少女はコクンと力を失った人形のように首を傾ける。思わずゾッとした。どこかケガをしたのかもしれない。
「どどどど……」
「ド?」
口が上手く回らない。口が回らないんじゃなくて舌かな? あぁ、もうどっちでもいいよ。とにかく上手に喋れない。
少女はそんなぼくを見て、一度首を傾げた後――
「ドは『ド〜♪』だよ?」
「いや…そうじゃなくて。あ、うん。ドはその音程で合ってるんだけど……」
なんともないのかな。立ち上がろうとしてその異変に気付いた。
右手が痛い。手をあげると、思いがけないものが目に飛び込んできた。
「あ、血が出てる」
少女を咄嗟に庇ったからだろう。手の甲が黒く染まっていた。街灯だけだと、よく見えないけど…間違いなく血。
ぼくが怪我をしているって事は、この子もケガをしているかもしれない。
「どっか痛くない?」
「――――」
指を差す。ぼくの右手を。
「いたそう」
そう言って、ピンクのハンカチを取り出すと手渡された。思わず受け取る。
女の子は心配そうにぼくの顔を覗き込んで――その声に気付くと背後を振り返った。
「ママー」
ぼくに見向きもしないで元気に女の子は公園の出口に駆けて行く。そしてそのまま、ぼくに気付かない母親に手を引かれて女の子は消えて行った。最後に一度振り返って手を振って。
残されたのはピンクのハンカチと、大きく吐息を吐いたぼくだけ。そろそろぼくも帰らないと……。
こんな時間まで外にいたんだ。怒られるだろうけど……まぁいっか。ピンクのハンカチをポケットにねじ込むと、ぼくは公園を後にした。
公園はちょっとだけ、寂しそうに藍色の空を見上げていた……。
あとがき――
むぅ。ダメです。前に書き上げた物から結構時間が経ってしまいました。
もっと早く仕上げるつもりだったのですけれど、これを書くまでに何個ボツを作ったことか……。これも満足が行くかと言えば、首を捻ってしまう有り様。
何を書いてもしっくりとこないし、執筆スピードが落ちているし、今まで程小説に向き合ってないし、肺は深く息を吸うだけで痛むし、胃も穴が開いたときの様に悲鳴をあげるし、心臓も時折変に動いて不調を訴えてくるし!
こうなった原因わかっているのに、どうやってその不安要素を排除したらいいのか分からない、というのは辛いですね。
そう言うとき、みなさんはどうします?
2004年8月24日 桜月楓
超短編小説
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