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五年目の音色


 ふと目が覚めたのは、雨音の為だけじゃない。
 トットットッ、と足音。聞こえるのは、頭上と言うか……視線の先、天井から。
 天井の向こうは屋根裏。屋根裏に人が入るには、天井を外さないといけない。
 そうは言っても、
「まぁ、チュウチュウ鳴いてたら、嫌でも正体が分かるけどな」
 音の正体は分かりきっている。雨が降ったからそこに逃げて来たのだろう。
 昔も一度屋根裏に出たことがあったけど、あの時は妹が大騒ぎだったけ。それを思いだしすと、クスリと笑みをこぼれた。
 電気は付けずに、上半身を起こす。眼鏡を暗くても着けてしまうのは、もう習慣になっているから。
「ぅん?」
 ベッドの下から意識の覚めていない寝ぼけ声が聞こえてくる。
「むぅ……夜ばいはだめ…だよぉー」
 昨日の事を根に持っているのか、凜が寝返りを打ちながら呟いた。といっても、既に同じ部屋にいるんだ。夜ばいも何もない。
 彼女の言葉を聞き流し、乱れた毛布をかけ直してやる。
 寝顔は安らかだ。何かいい夢でも見ているのか、微笑んでいるようでもある。
 そんな凜を見ていると、どこか懐かしさに包まれた。
 それが何であるか。考えながらも、無意識に足は台所へと向かう。
 暗いけれど、外からの明かりと今までの感覚から、コップを探り当てる。
 白いマグカップ。
「まだあったんだ……」
 ネコのキャラクターイラストが入ったマグカップは、予期せぬものだった。
 とっくの昔に処分したと思ったのに、こんな所にあったんだ……。
 感慨に耽っていると、部屋の電気が付いた。
「先輩、どうしたんですか? 電気もつけないで」
「ん、あぁ……。目が覚めたんで、水でも飲もうと思ってね」
 妹のマグカップを元の食器入れにしまう。光りを名残惜しみながら、それは目に付かない影に消えて、戻っていく。
 凜はそれを不思議そうに見ていたが、やがて大きく欠伸をして部屋に帰って行った。
 電気がついた部屋は、もう懐かしさを感じさせるものから、日常――いや、現実に戻ってしまっていた。
 外からの雨音も、屋根裏のねずみの足音も、ただのどうでもいい音に成り下がる。
「もうすぐ、五年か……」
 妹の寝顔を思いだし、苦笑しながら電気を消した。あいつもいたら、凜と似た感じなのかもしれない。
 そう考えているのに気付き、慌ててそれを打ち消した。そして、二人に向かって心の中で謝罪する。
 白いマグカップに一度振り返り、
「たまには花でもあげに行くよ」




  あとがき――

 先日……昨日か。家の屋根裏にねずみが出没いたしました。
 朝の四時頃かな? ゲームをしていると(そんな時間にするな)物音が!
 咄嗟に木刀を手にして耳を澄ますと天井からの音。しかも、直後に奴らの鳴き声が。
 まっさきに思ったのが、なんか懐かしいなぁ、でした。
 何でそう思ったのかは分かりませんが、とりあえずネタにしようということになりました(笑)
 因みに、ねずみの鳴き声を実際に聞いたの初めてかも……。

  2004年9月1日 桜月楓

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